遠隔ICUにおけるチームワーク
~診療の質を高める信頼関係の作り方~
2024年4月の医師の働き方改革の本格化と診療報酬改定によって、遠隔ICU(Tele-ICU)は注目を集めています。専門医不足や地域偏在を補い、医療の質の向上と医療従事者の負担軽減を目指す仕組みとして期待される一方で、技術だけでは完結しない「人と人」の関係構築成否を左右します。デジタル化された患者の診療情報やビデオ通話を活用し、診療やコミュニケーションを行う遠隔ICUでは実際どのような連携がおこなわれているのでしょうか。横浜市立大学病院 集中治療部で遠隔ICUの導入・運用に取り組む出井真史先生にお話を伺いました。
コミュニケーションの本質
対面以上に求められるもの
Q1 出井先生の専門分野である「遠隔ICU」においてのコミュニケーションやチームワークについてお聞かせください。
A1 遠隔ICUは、物理的な距離を越えて重症患者を支える医療モデルです。そう言うと技術面が注目されがちですが、最も重視するのは 「人と人とのつながり」です。遠隔環境では対面診療以上にコミュニケーションの質が問われる場面が多くなります。画面越しでは、相手の表情や現場の空気感が伝わりにくく、言葉の選び方一つで関係性が大きく変わります。だからこそ私達は、被支援施設の主治医や看護師さんに対する敬意(リスペクト)を常に持つことが大切だと考えています。私達は支援する側ではありますが、上に立つ存在ではありません。患者を最前線で診ているのは現地の医療者であり、その判断や努力への敬意こそが信頼関係の基礎になると考えています。
Q2 オンライン上のやりとりでも、まずは人と人としての基本的な姿勢が大切ということですね。実際の運用面での具体例をお聞かせいただけますか。
A2 被支援施設とのオンライン上でのやり取りの場面では、具体的には次のような工夫をしています。
・毎回必ず名札を画面に大きく映して挨拶をすること
・できるだけカメラを見て、目線を合わせて会話をすること
・相手の発言にはうなずきや、分かりやすい反応を返すこと などです。
こうした小さな工夫の積み重ねが、画面越しでも「対話している」という感覚を生み、信頼関係を築く土台になると考えています。これらは行動経済学の観点でも重要とされていて、人は「信頼されている」「尊重されている」と感じると内発的動機づけが高まり、自発的に行動し協力する傾向があると言われています。したがって遠隔ICUにおいても指示型・命令型ではなく、心理的安全性のあるパートナーシップを築くことが、診療の質向上につながると考えています。


Q3 実際の被支援施設へ実施したアンケートでは、「支援側医師との信頼関係構築」が最多の回答であったと伺いました。具体例をお聞かせください。
A3 信頼関係を築くうえで最も大切なのは、オンラインだけに頼らず、互いの顔が見える関係を育むことだと考えています。そのために私達は可能な限り現地を訪問し、直接話をするように心がけています。短時間の訪問であっても、実際の診療を共に振り返りながら話すことで、画面越しでは得られない深い相互理解が生まれます。
さらに小さな成功体験を積み重ねていくことも、信頼関係を強固にするうえで欠かせない要素だと感じています。人工呼吸管理の微調整や敗血症初期対応の標準化、夜間のちょっとしたコンサルトなど、現場が「役に立った」と実感できる成果を重ねることで安心感が生まれ、遠隔ICUの活用が定着します。この積み重ねこそが、持続的な協働関係を形成するポイントだと考えています。
実際に私達の調査でも、支援期間が長い施設ほど、平日日中の遠隔ICUコール活用が増えることが分かりました。これは定期カンファレンスや教育、症例振り返りなどを通じた、遠隔ICUを活用した「共創」のフェーズに入っていることを示しています。
患者の運命を変え得る“医療インフラ”
遠隔ICUは単なる相談窓口ではない
Q4 遠隔ICU全体の構造的な視点でのお話をお聞かせいただけますか。
A4 大規模臨床試験では、支援側に治療決定権(治療指示、オーダー、転院搬送の判断など)がある体制の方が患者アウトカムが改善する傾向が示されています。単なる助言に留まらず、必要な場面で治療を先導できる構造と、それを可能にする信頼関係が、迅速な意思決定と救命につながることを示唆しています。
私自身も、肺炎から重度の敗血症性ショックとARDSへ進行した症例で、遠隔ICU支援の中で主治医と協議し、迅速に大学病院への転院搬送を決めた経験があります。結果として集学的治療が奏功し、患者が回復した事例です。遠隔ICUが単なる相談窓口ではなく、患者の運命を変えうる医療インフラであることを強く実感させられる経験でした。
大前提として遠隔ICUの成功は、システム導入だけでは完結するものではありません。相互尊重、信頼構築、互いの診療への理解、そして小さな成功体験の積み重ね――こうした人間的要素がチームワークを育み、最終的に患者アウトカムを改善すると私は信じています。私達はこれからも被支援施設と並走するパートナーとして、共に学び続ける遠隔ICUを実践し、その価値を高め続けていきます。
出井真史(いでい・まさふみ)
横浜市立大学附属病院 集中治療部 准教授
専門分野:周術期管理・遠隔ICU・心臓麻酔
略歴:2007年 筑波大学 医学専門学群 医学類 卒業
2009年 横浜市立大学 麻酔科学教室 入局
横浜市立大学附属病院および横浜市立大学附属市民総合医療センターのICUで臨床・研究に従事在籍中、2016年 米国Washington大学 胸部外科ICU 短期研修
2018年 東京女子医科大学 集中治療科 助教
2021年 横浜市立大学附属病院 集中治療部 講師
2024年 横浜市立大学附属病院 集中治療部 准教授 現在に至る
