もっと身近に、もっと日々に。
第30回 日本遠隔医療学会学術大会[information- Vol.1]
開催概要
2026年11月7日(土)〜11月8日(日)の二日間、第30回日本遠隔医療学会学術大会がパシフィコ横浜 アネックスホールで開催される。
テーマは「原点と革新。新しい遠隔医療のかたち。もっと身近に、もっと日々に。」
遠隔医療の社会実装に向け、多職種・他分野が一堂に会する場となる。今回、大会長を務める横浜市立大学附属病院 集中治療部 部長 髙木俊介先生に、開催への思いや見どころを伺いました。
遠隔医療は未来の話ではなく、現場を支える「現実の選択肢」
「第30回日本遠隔医療学会学術大会」開催への思い
―大会長就任の背景を教えてください
2年前、大会長就任のお話をいただいた際は、遠隔ICUの診療報酬が検討されていた時期で、遠隔医療にとって大きな転換期でした。そのタイミングで学術大会という公の場を通じて、少しでもその価値や可能性を伝えたいという思いが自然と沸き上がりました。学術大会の大会長を務めるのは初めての経験で、不安もありましたが、何も見えていないからこそ挑戦する価値があると感じました。「やります」と答えた一言は、遠隔ICUの未来を前に進めたいという覚悟の表れだったのだと思います。

自動運転車両×遠隔医療。「医療MaaS」によるデモンストレーション実証
―学会では「医療MaaS」によるデモンストレーション予定されているそうですね。現時点での計画をお聞かせいただけますか。
はい。自動運転車両に医療関連機器を搭載し、パシフィコ横浜周辺で医療MaaS実証デモンストレーションを行う計画が進められています。これは、遠隔医療とモビリティを組み合わせた新しい医療モデルが、現実空間でどのように機能し得るのかを、参加者の皆さまに体験していただく試みです。
―「医療MaaS」とはどのような概念でしょうか。
医療用MaaSとは医療におけるMobility as a Serviceです。診療や検診ができる機器を車体に搭載して、過疎地域で診療所として機能したり、オンライン診療を実施したりします。今後、僻地などで医療アクセスが困難な場所において、医療用MaaSを積極的に活用していくことが予想されます。医療用MaaSは、単なる診療所や移動手段の進化にとどまらず、医療提供のあり方そのものを変える可能性を秘めています。とくに、医療資源が限られる地域や、移動が困難な環境においては、「安全に、確実に、人と医療をつなぐ移動インフラ」としての役割が、今後ますます重要になります。
これらの技術と遠隔医療を組み合わせることで、患者搬送、通院支援、巡回診療、さらには遠隔診療ブースなど、医療と移動が一体化したサービス「医療MaaS」という新しい医療提供モデルが現実味を帯びてきます。医療を“病院の中”に閉じ込めるのではなく、必要な場所へと「届ける」ための、新しいインフラとしての可能性が広がっていきます。
遠隔ICUを始めた原点と医療の仕組みを変えるという視点
―本大会で、高木先生ご自身の経験もお話しされると聞きました。
遠隔医療は未来技術ではなく、すでに現場を支える「現実の選択肢」です。私が救急・集中治療の道に進むなかで、研修医時代の患者の急変対応の悔しい経験が原点となっています。
その後、救急、集中治療、麻酔…と、命の瀬戸際に向き合う領域に身を置きました。さらに、マレーシア、オーストラリアへと渡り、異なる医療システム、異なる価値観の中で研鑽を積みました。こういった経験を含め、医療の質は個々の努力だけではなく、「仕組み」によって大きく左右されることを痛感しました。「遠隔ICU」に関わる直接的なきっかけは、2016年にアメリカで遠隔ICUを見学したときです。モニター越しに専門医が複数のICUを支え、現場の医療者と連携しながら患者さんを守っている。その光景を目の当たりにした瞬間、これが必要だ!と、直感しました。医師の数や経験の差によって救える命に差ががあってはならない。その思いが現在までの取り組みに繋っています。
技術より「使われる仕組み」づくり。社会実装の視点
―学会では、技術の普及や社会実装についても議論されるのでしょうか
はい。技術はあくまでも手段であり、それをいかに現場に根付かせるかが社会実装の本質です。AIや遠隔医療技術など優れた技術があっても、現場で使われなければ価値は生まれません。現場で悩み、迷い、必死に患者さんと向き合っている医師や医療者を、どうすれば支えられるのか。その問いに対する、私なりの答えが、遠隔ICUであり、遠隔医療なのだと思っています。
臨床の現場に立ち続ける医師であり、CROSS SYNCの取締役会長として、「テクノロジーをどう医療に浸透させ、どう社会実装していくか」という問いに日々向き合い続けています。医療の現場には、これまでにも多くの優れた技術が生まれてきました。「AI」、「遠隔医療」、「センサー」、「データ解析」どれも可能性に満ちた技術ですが、いざ現場にたってみると、良い技術があることと、それが実際に使われ、患者さんを救うことの間には、深くて長い距離があるということを痛感させられます。
医療における社会実装とは
⚫︎現場で実際に使われること
⚫︎医療者の負担軽減につながること
⚫︎患者の安全に寄与すること
⚫︎特定の病院だけでなく、どこでも当たり前に使われること
これらを満たしてはじめて成立します。本学会が、新しい知見や技術を共有する場であると同時に、「どう社会に根づかせるか」を議論する場になれれば本望です
―最後に本学会へどのような方々にお越しいただきたいでしょうか。
日本遠隔医療学会は、「だれでも、どこでも、等しく医療を受けられる」という遠隔医療の原点を共有しつつ、産・官・学が同じ目線で会話できる、きわめて稀有な学会です。企業は研究成果や実装事例を発表し、展示を通じて現場と対話し、工学系研究者、医師、看護師、そしてコメディカルといった多様な職種が一堂に会して議論します。こうした分野と立場を越えた横断的な協働こそが、遠隔医療を「特別な技術」から「日常の医療インフラ」へと押し上げ、真のイノベーションを生み出す原動力になると、私たちは考えています。原点に立ち返りつつ、革新を恐れず、テクノロジーを医療に根づかせるための対話と共創の場として、本大会が多くの方にとって有意義な機会になることを願っています。