私達の考える「遠隔ICU」

インタビュー・考察

私達の考える「遠隔ICU」 
いつでも、どこでも ~ 専門医の力をネットワークでつなぎ、地域の命を守る~

遠隔ICU(Tele‑ICU)の仕組みと広がる期待

「遠隔ICU(Tele-ICU)」は複数の集中治療室(ICU)をネットワークで結び、中心となる支援センタ ーにいる専門医が患者の状態をモニタリングし、各ICUの主治医に対して診療支援を行う仕組みです。専門医 不足や地域偏在といった構造的課題に対し、医療の質の向上と医療従事者の負担軽減の両面での貢献が期待されています。
臨床研修中に患者の急変時に十分対応できなかったという自身の苦い経験を原点に、遠隔医療や 医療現場におけるAIの活用に取り組む横浜市立大学附属病院集中治療部の医師であり、株式会社CROSS SYNC取締役会長の高木俊介氏に話を聞きました。

社会課題が後押しする「遠隔ICU」の導入

横浜市立大学附属病院 集中治療部では2020年から段階的に遠隔ICUの運用を拡大し、現在は横浜市立市民病院、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター、国際医療福祉大学病院(栃木県)に対して、24時間365日の診療 支援を提供しています。2024年度の診療報酬改定では遠隔ICUが保険収載されたことも追い風となり、業界全体での普及の機運が高まっています。 遠隔ICUの主な利点は次の通りです。
・専門医が不足している地域でもICUレベルの判断が受けられる
・夜間や人出不足の時間帯でも現場の負担を軽減できる
・複数の患者を同時にケアできるため支援する側のメリットも大きい。
 その一方で、遠隔ICUの導入には様々なハードルが存在します

導入時に立ちはだかる課題:システムとコミュニケーション

一つ目 システム面の課題
その代表例である電子カルテシステムは施 設ごとに仕様や運用ルールが異なり、院外の医師に閲覧制限がある場合が多いです。そのため情報の読み解きに時間を要するなどスムーズな情報共有の妨げとなっています。
二つ目 コミュニケーション面の課題
支援先の主治医や看護師との連携は基 本的にオンラインで行われますが、導入初期は支援先からオンコールが入らいない日もありました。髙木氏「オンラインでのやり取りにに双方が不慣れだったことや、使い勝手の悪いツールは自然と使われなくなる」。

 転機
試行錯誤を繰り返し、風向きが変わってきたのは日勤のみの対応から、24時間の 支援体制へ移行したタイミングだったと同氏は振り返る。支援センターに連絡しやすい環境作りや関係構築のノウハウを整備した結果、導入から5年で、支援先の主治医への夜間コールが実質ゼロになったというデータも見逃せない ※1。
 ※1 横浜市立大学附属病院 集中治療部の被支援施設担当医へのアンケート調査

遠隔医療を支えるCROSS SYNCの技術

遠隔ICUの普及には、システムとコミュニケーションの両面でストレスのない環境を整えることが不可欠です。髙木氏が2019年に設立した横浜市立大学 発ベンチャー株式会社CROSS SYNCでは、医療スタッフ、エンジニア、ビジネスの プロフェッショナルが連携し、AIとセンシング技術を活用して現場の課題解決に取り組んでいます。2024年3月に同社が発表した患者看視アプリケーション「iBSEN DX」はその代表例。 
iBSEN DX(患者見守りアプリケーション)

  • 重症患者の病床で必要な情報を一元管理
  • 生体モニター、画像、電子カルテなどのデータを整理して表示し、患者状態を直感的に把握できる設計
  • 現役医師の視点を反映した実務重視の機能を装備(現在は実証試験段階で運用性を検証中です)

髙木氏の現役医師としての視点が「iBSEN DX」に生か されていることは間違いなさそうだ。同社は大学発ベンチャー表彰2025で文部科学大臣賞を受賞するなど、将来性への期待も高まっています。髙木氏は「集中治療という概念をなくし、どの病床でもICUレベルの医療を提供できる世界を目指す」と語っています。「大変なこともありますが、誰かがやらなきゃという気持ちです」と遠隔医療への思いを滲ませた。 
本サイトでは、「遠隔ICU」に関する最新情報や現場の声を定期的に発信していきます。

髙木俊介(たかき・しゅんすけ)
 医師/株式会社CROSS SYNC  取締役会長
横浜市立大学附属病院 集中治療部 部長 准教授 (2018年4月より現職)集中治療室の業務効率化や遠隔集中治療の構築を主なテーマに研究・講演活動を行う。2019 年に大学発ベンチャー株式会社CROSS SYNCを設立し、医療現場 とテクノロジーを融合した革新的な取り組みを推進している。

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